| ある休日 |
「こちらにおいででしたか」 声がして、政宗は薄く目を開いた。 葉を透かして漏れてくる光が赤みを帯びて、もう日が傾きかけていることがわかる。姿勢を変えないままひらひらと手を振ってみせると、あからさまな溜息が返ってきた。 「そんなところで何をしていらっしゃるのです」 「特に何も」 「全く、童めいたことはおやめくださいと何度申し上げれば!」 「HA!気持ちいいぞ、お前も来るか」 渋面を作る守役の顔を見下ろそうと樹の枝に腹ばいになる。一抱えもある太い枝にべたりと全身を預けると、真下からこちらを見上げる小十郎が途端に焦り顔になった。 「政宗様!!」 「心配しなくても、落ちやしねえよ」 いつもは小憎らしいくらいに取り澄ました男がこんなにも慌てているのを見るのはいつ以来だろう。なんとなく気分がよくなって、再び目を閉じた。 このまま眠ってしまうのは流石にまずいだろうけれど、そうできたらどんなにいいか。 小十郎はまだ何やらぶつぶつ言っていたが、眼を閉じたままでいるとやがてそれも聞こえなくなった。 立ち去ったわけではないことは気配でわかる。大方、どうやって連れ戻そうかと思案中なのだろう。 何と言われてもまだしばらくはここにいるつもりで、深く息をついた瞬間。 「う、おわっ!?」 「ああ、驚かせてしまいましたか」 がさり、と大きな音を立てて政宗の乗る枝が揺れた。 咄嗟に枝にしがみつくのと、思いもかけない近くから小十郎の声が聞こえたのとは同時で。 体勢を立て直して振り返れば、「あなたが来てみろとおっしゃったのですよ」などと言いながら涼しい顔で登ってきた男がいた。 「だから、危ないと申し上げましたのに」 「shit!今のは不測の事態だろ」 「不測だろうと予測可能だろうと、御身に危険の及ぶようなことはおやめくだされと常々申し上げているはずですが」 そのまま延々と続きそうな説教じみた小十郎の口調に政宗はがくりと項垂れた。 折角城を抜け出していい気分になっていたのに、これでは台無しだ。 いつもと何も変わらない。 が、予想に反して、小十郎はそれ以上の言葉をよこさなかった。 「…小十郎?」 様子を窺ってみると、幹に背をもたせ掛けて座った男はこちらを見て笑っていた。 「怒ってないのか?」 「怒っておりますとも」 思わず出た問いに返ってくるのは、やはり笑い混じりの声だ。 昔、まだ自分が幼かった頃、他愛無い悪戯をしたのが見つかったときのような。 「しかし、この場所の心地よさを無粋な小言で損なうのも如何かと思いましてな」 お小言は城までとっておいてもよいでしょう。そう言って遣す小十郎に、思わず政宗の頬も緩んだ。 枝上をにじり寄って、隣に座りなおす。目前の、きっちりと整えられた合わせに目をやって、笑みはますます深くなった。 手を伸ばしてそこから小十郎の愛笛を取り上げ、差し出す。 「城に帰ったら小言でも何でも聞いてやるから、吹いてくれよ」 「…日が暮れるまでには帰りますぞ」 「わかってるって」 「ならば仰せに従いましょう」 他ならぬ我が殿のご所望ですから、と構えられた笛からは名も知らぬ旋律。 緩やかに流れるそれに、政宗は再び目を閉じた。 せめて 今ひとときだけでも 穏やかなれば |
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